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秋雨 2009/10/26 MON(No.2396)

 最相葉月の「絶対音感」、ボクにはすごく面白かった。1998年の小学館ノンフィクション大賞を受賞し、その年のベストセラーになった作品である。当時ずいぶん話題になったのだが、読む機会を失い、今回、たまたま本屋で見つけたので手に取った。
 はっきり言って、音楽や音楽史、教育学、心理学、生理学、哲学などにある程度の基礎知識がないと入り込めない、というか、この本の本当のエッセンスは汲み取れないいと思う。200人近い取材協力者、つまり、著者がインタビューした人々のリストが巻末に列挙されているが、その中の少なくとも音楽家の名前ぐらいは知っていないと、面白さも半減だろう。
 だが、それらの知識がある程度ある人なら、最初から最後まで頭の中を「!」マークが群れをなして駆け巡るほどの興奮を覚えると思う。とにかく、すごい本だ。面白いだけではなく、知的好奇心がたっぷり刺激される。昨日、4軒も梯子してしまった理由は、実はこの本だったのである。
 人間の中には、ある音程の音を指定されて、その音程を即座に声に出せる人がいる。たとえば、ドレミの「レ」の音と指定されれば、ピアノの「レ」の音程と寸分狂わぬ音を、もちろんピアノの音を聞くまでもなく、声で出せるのである。
 普通の人はそうはいかない。一般的には、他の音、たとえば「ラ」の音をピアノなり音叉なりで出してもらい、その音を基準にして「レ」の音を歌うのである。このように、あたかも体そのものが(きちんと調律された)楽器のように、音階を他からの助けなしに正確に出せる人を、「あの人は絶対音感を備えている」という風に言う。
 絶対音感を持っていると、音楽家を志す場合などには絶対に有利であると言われてきた。著名な音楽家に絶対音感の持ち主が多いのも事実である。楽譜を見さえすれば、そこに記されている音が頭の中で正確に鳴ってくれるわけだから、初見(練習なしでいきなり楽譜通りに歌う、あるいは演奏すること)で演奏しなければならない場合などには、絶対的な優位に立つ。作曲家なら、頭の中で鳴っている音を楽譜に書き止めるだけでいいわけで、いちいちピアノの前で弾きながら作曲する必要がないのである。モーツァルトが絶対音感の持ち主であったとはよく言われることだが、そうでなければ、あれだけの数の作品が書ける道理がないということから、そのように推測されているわけだ。
 しかし、果たしてそれは事実だろうか、著者の疑問はそこからスタートする。さまざまな音楽家にインタビューし、科学者の意見も聞いて回る。日本人に絶対音感の持ち主が多いという常識が、なぜそのようになったのか、音楽教育の場面からも考察される。生理学の研究者からも話を聞いて、メカニズムの謎に迫ろうとする。
 有利と思われている絶対音感が、逆に音楽家の桎梏になる事実が掘り起こされる。オーケストラの演奏会を聴きに行くと、開演前に音合わせがある。ふつう、オーボエが「ラ」の音を出し、その音程に他の楽器が調律、調弦する。演奏者、聴衆ともに、緊張感がもっとも高まる一瞬だ。
 しかし、オーボエの「ラ」が、平均律の440ヘルツである保証はない。絶対音感の持ち主は、それがたとえば441ヘルツであったりしたら、演奏の間中気持ちが悪くて、演奏に集中できないのである。楽譜で示されている音と、実際に自分が出している音に狂いがあるわけだから、まるで絶対音感が演奏の邪魔をしているようなことになる。知っている曲をレコードで聴いて、蓄音器の回転数が狂っていたりすると、吐きそうになる人もいるらしい。
 ボク自身は相対音感である。ある基準音さえ示してもらえれば、楽譜通りに歌うことができる。もちろん、現代音楽のように、無茶苦茶な音程の羅列でなければ、であるが。レコードを聴いて、それを楽譜に書き写すこともできる。もちろん、パートの数が少なければ、であるが・・・。だが、基準音なしではまるで音痴だ。
 ボクも絶対音感が欲しいと熱望していたし、演奏しなくなった今でもその思いはある。しかし、この本を読んで、ちょっと考えてみる気になった。絶対音感を持つ音楽家の多くが、「あれば便利だが、なくて困るものでもない」と言うそうだ。でも、それじゃダイヤモンドだってそうだろうよ。どうしてくれる、40年もの間眠っていた知的好奇心が揺り動かされて目覚めてしまいそうじゃないか。
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「絶対音感」 icon
(キット評価:★★★★★)





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