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影を慕いて 2010/03/10 WED(No.2531） 　ディック・フランシスの最新作「拮抗」を読んだ。推理小説ではない「女王陛下の騎手」を除けば、彼の43冊目に当たる一作であり、また、遺作となった小説である。先月の14日、最後まで名手であり続けたフランシスも、とうとう89歳の生涯の幕を閉じた。本国イギリスはもとより、世界中のミステリファンを魅了し続けた大家の退場であった。海外の作家の死が日本で報じられるのは、ノーべル賞受賞者などよほどの大家である場合に限られるが、翌日の朝日新聞には大きな記事として掲載されていた。まさに別格扱いである。 　「拮抗」は息子フェリクスとの共著である。高齢であり、また、健康を害していたと言われるから、本人の役割は筋立てだけで、実際に執筆したのは息子の方だと思われる。2000年に最愛の妻メアリを喪ったことがショックとなり、６年間も筆を折っていた彼が、「再起」で文字通り再起を果たしたのも、息子の協力があったればこそだった。その後の３冊は、すべてフェリクスとの共同執筆という形をとった。ただし、著者はフランシス、協力フェリクスという体面である。共著と正式に謳われたのは、この「拮抗」が最初で最後になったわけだ。 　今回の主人公はブックメーカー。聞きなれない職業だが、イギリスでは、個人で賭けを受けるこの職業が伝統的に、また法的にも認められていて、会社組織になっている大規模なブックメーカーもある。ラドブロークなどの上場企業もあるぐらいだ。 　その主人公の前にある日、とっくに死んだと聞かされていた父親が現れる。その父親と名乗る男が、会ったその日に、主人公の目前で刺殺されるのである。30年以上も行方不明だった父親がなぜ突然姿を見せたのか、なぜ殺されなければならなかったのか、主人公は否応なく、この大きな謎に挑むことになる。やがて、主人公のもとにも魔の手が忍び寄り、競馬場では大手と個人のブックメーカー同士の確執が表面化し始める。 　フランシスの白鳥の歌にふさわしい面白さであった。謎解きの要素もたっぷりだし、ブックメーキングの世界が詳細に書き込まれているので、それに触れる楽しみもある。主人公の妻が重度の躁鬱病を患っているという設定も新鮮だ。もうこれ以上彼の新作は読めないと思うと非常に残念だし、悲しいけれど、最後に大きなプレゼントを置いて行ってくれたんだなと思う。 ディック　＆　フェリクス・フランシス 「拮抗」 早川書房　1,995円 【キット評価：★★★★★】 お散歩ネットの2008年ベスト100写真集 出版元：　PIE BOOKS キットタケナガ著 「心に残る名風景・日本の棚田」 定価：　1,900円＋税 ５月発売予定 購読解除はこちら 全バックナンバーはこちら 感想、ご意見などはこちらから。 「お散歩デジカメ　Premium Version」 日刊の有料メルマガ 購読料1,050円（月間）はクレジットカードからの自動引き落としです。 普及版と同様、「一日一枚」ではありますが、 有料だけのことはあるな！ という内容になっとります。 写真が上手になりたい人や、 キットのせいで人生を誤りたい人は 購読して後悔することはありません。 メルマガ登録・解除 お散歩デジカメ Premium Version >>  サンプル 詳細ページへ powered by まぐまぐプレミアム 今日のプレミア版 【内容】 展示作品：通常版「アメ横風若者ファッション」 エッセイ：病院通いが続く、ただし付き添いで 今日のポイント：肖像権（８） ネット撮影会講評：休載 アメ横風若者ファッション